NAOTAKA
FUJII
from
Hacosco, Inc

Letter from Naotaka Fujii

ハコスコ越しに、新しい現実を見つめよう。
ハコスコは、ダンボール製の格安のビューワーとスマートフォンで、手軽にハイクオリティなVR体験を可能にします。理化学研究所の理研ベンチャー制度により、2014年7⽉に創業した代表の藤井直敬氏が、佐俣アンリとともに見つめる、新しい「現実」の創造について語ります。

現実は、つくることができる

現実とは何なのか?
私に言わせれば、それは簡単に操作でき、つくり出すことができるものだ。現実とはヒトの脳がつくるものであり、その認知機能は、テクノロジーで簡単に操作することができる。

最先端の映像処理技術と Oculus Rift のような高精細のヘッドマウントディスプレイは、現実とほぼ同等と呼べるVR体験を可能にした。
私はその最先端のテクノロジーの前で、人間の認知機能が簡単に操作できることを、現実とVRを地続きにする技術「代替現実(Substitutional Reality: SR)」の開発を通して実感した。
たとえば被験者にヘッドマウントディスプレイを通した現実世界の映像を一定時間見せ続ける。透明な眼鏡をかけたような状態を想像してほしい。ヘッドマウントディスプレイは、あなたが今見ている現実をそのままに映し出す。右を向けば、あなたの右側の世界が映し出される。
その現実世界の映像を、あるタイミングで虚構の映像に切り替える。すると被験者は、どこまでが現実で、どこからが虚構かが区別できなくなるのだ。虚構の映像の中にいても、それが現実だと思って振る舞うようになる。「現実は、つくることができる」それが現実なのだ。
その現実を知ったとき、私はVRが生み出す世界の虜になった。

VRは今、ヘッドマウントディスプレイを通して見ることができる世界だと思われている。しかしVRは近い未来、私たちの生活のすべてに影響を与えるものになるだろう。
日常のあらゆるところに情報が重ねられ、どこまでが現実で、どこからかVRかが分からなくなる。さらに分かる必要もなくなる。そこにある現実が人工的なものなのか、本当に存在するものなのか区別がつかなくなるというのが、本来のVR「今ある現実とは異なるが、その現実と本質的には同じもの」という現実だ。

VRには、体験が必要だ

そんな大きな可能性を秘めているVRだが、実際にはまだまだ認知度が低いというのが現実でもある。VRを、もっと多くの人に知ってもらいたいと思って始めた事業が「ハコスコ」だった。
VRは体験しない限り分からない。しかし起業した2013年当時の選択肢は、高価で入手困難な Oculus Rift とハイスペックなPCを用意しなければならなかった。これでは体験できる人も機会も限られる。

普通の人の中でVRの体験を増やすためには何が必要だろう? まずは格安のビューワーだろうと考えた。
VR体験に欠かせない、頭の動きを計測するための加速度センサーやジャイロスコープ、映像を再生するための高精細ディスプレイをゼロからつくれば、必ず価格は上がる。ところがこれらはすべて、誰でも持っているスマートフォンにすでに搭載されている。ならばスマートフォンをつかって、VRビューワーをつくればいいと考案したものがハコスコだった。
素材に選んだのはダンボール。1万個つくってもコストはせいぜい数百万円だ。スポンサーがつき、印刷代を負担してもらえれば、無料で配ることもできる。最初はそんな、広告メディアにもなり得るVRビューワーとして開発を始めた。

現実と仮想の境界が曖昧になってきている

今でこそVRは話題に事欠かないが、最初は誰に説明してもうまく理解してもらえなかった。そもそも私は脳の研究者だ。それもサルの脳に直接電極を刺してそのメカニズムを解明するような研究だった。こうして起業することすら、予想していなかったのだ。
どのように出資を受ければ良いのか、株式をどのように渡せば良いのか、右も左も分からない時に相談したのがアンリだった。アンリとは親子ぐらい年齢が離れているけれど、夫婦ぐるみで付き合いを始めてもう8年ほどになる。まさか投資家と起業家という立ち位置になるとは思ってもみなかった。

かくしてVR界における「ダンボール屋」の名をほしいままにしているハコスコだが、その正体はデバイスとしてのハコスコ、VRコンテンツの配信、そしてアプリのリリースを主軸とするVRコンテンツのプラットフォームだ。デバイスの入り口としてハコスコを使ってもらい、ハイエンドユーザーは Gear VR や Oculus Rift でも共通のアプリでVRコンテンツを楽しんでもらえるようにしている。

アンリとは、人間がこの世界に対し、新しい関わり方をしてゆくこれからの未来を、ハコスコ越しに見ていきたいと思う。
人間の世界への関わり方は今、大きな変化の中にある。もともと人間の脳には「無いもの」を「ある」と思い込むことができるという特徴がある。私たちが「物語の世界」の中で様々な体験をするように。かつては小説を読むなど、人間が積極的に「物語の世界」に関わらなければならなかった。しかし今は、テクノロジーがぱっと見には仮想だとは分からないクオリティで現実空間を変えている。すると人間は、そこに無いはずのものを「ある」と受動的に思い込み、この世界の中を生きてゆくようになるだろう。現実と仮想の境界が、テクノロジーによって曖昧になってきているのだ。
人間の世界への関わり方が変わる。ハコスコはその新しい世界で仕事をしたいのだ。