YASUKANE
MATSUMOTO
from
Raksul, Inc

Letter from Yasukane Matsumoto

全国の印刷事業者をネットワークし、新聞折込や商業用チラシなどの印刷を劇的に高効率化・低コスト化したトワーサービス『raksul』。ユーザー会員数は25万人、最近の3年間の売上成長率670%というビッグビジネスです。
「ふたりで伸びていけた」と話す代表取締役松本恭攝氏が、同い年の起業家から見た、投資家・佐俣アンリを語ります。

アンリはずっと、「ベンチャーのアンリ」だった

「アンリ、俺、会社やめて起業するよ」って、六本木ヒルズから電話をかけた時のことを、僕はしっかりと覚えている。
2009年の8月。まだ僕がA.T.カーニーでサラリーマンをしていた頃だ。誰かに起業することを打ち明けても「大丈夫?」って返されるだけだったけど、アンリだけは「おめでとう」って言ってくれた。
今でこそ「スタートアップ」という言葉も使われるようになって、かっこいいイメージがあるけれど、当時はライブドアショックの影響もあって、ベンチャーという言葉の周りには怪しい人たちがいると誤解されていた。
その中でもアンリはベンチャー志向だったし、すでにリクルートを辞めて、フリークアウトやハイパーインターネッツ(CAMPFIRE)の立ち上げに関わっていた。
電話の先のアンリは、三田にある『ラーメン二郎』で腹ごしらえをした後だった。変わらないなあ、と思った。同い年のアンリはあの頃から僕にとって「ベンチャーのアンリ」だった。

起業家は孤独だ。会社経営について、何度も話を聞いてくれた

起業した当初から僕が目をつけていたのは印刷業界だった。6兆円という巨大な市場規模でありながら、大手の寡占によるいびつな産業構造を持ち、膨大な数の中小企業がひしめき合っている。「仕組みさえ変えれば、この業界はもっとよくなる」と思い、2010年4月に全国の印刷会社をネットワーク化する印刷会社の比較サイト「印刷比較.com」をスタートさせた。
年内には累計PVも100万を超え、黒字化し、充分にユーザーがつく事業になった。でも僕はその事業はいずれ頭打ちになるとも思っていた。印刷会社を利用するユーザーにとってのイノベーションを起こせるようなEコマースこそを誕生させたかった。そのアイデアが結果として、商業用チラシなどの制作効率を劇的に向上させるファブレスの印刷ECサイト「raksul」の誕生となった。

創業当初はワンルームマンションを住宅兼オフィスとして使っていた。当時はメンバーにベトナム人が3人いて、27平米ほどの部屋に彼らを含む7人がすし詰めになって仕事をしていた。「ベトナムでも、こんなに環境が悪いところはない」と言われていたオフィスに、アンリも出入りしていた。

ラクスルには印刷業界の産業構造自体を変える力がある。そう信じて投資をしてくれたのは2012年のことだった。
僕には、アンリとふたりで伸びていけた実感がある。アンリが伸びてゆくラクスルの信用や成長でファンドにお金を集められたように、ラクスルにとっても「アンリが投資している」ということが他の投資家にとっての安心になった。アンリはいつも、いい味方のつくり方をしているなあと思う。おかげで僕たちは、2014年には15.5億円もの資金調達ができた。

アンリは、僕にいろんなことを教えてくれた。
一般的に投資家が起業家に与えてくれるものは、お金か知恵か人。しかしアンリは、それらの支援はもちろん会社経営を教えてくれた。経営者は孤独な人種だ。自分のビジネスモデルや夢を理解してくれ、相談に乗ってくれる相手は数少ない。感情的に辛くなることも多かった。そうした時、精神的な支えになってくれた。今も本当に感謝している。

起業して、世の中は「つくるもの」だと知った。

僕は起業家として、世の中は「つくっていくことができるもの」だと思っている。
多くの人は、世の中のルールは「所与のもの」だと思っている。そして、その中でどうやって生きるかを考えるけれど、生み出す側になれば「世の中をどうつくっていこうか」と考えるようになる。そのプロセスは、自分の知らないことを知ることであったり、自分にしか見えていない何かを、自分の手でつくることでもある。

この世の中にまだ存在してなくて、本来あるべきはずのものは何なのか、それを考えている時が、起業家にとって一番楽しい瞬間だと今も思う。
そうした瞬間を、これからもアンリと共有していきたいと思っている。