SPECIAL INTERVIEW

与信も結果もない10年前のANRIに出資した。朝倉祐介様×佐俣アンリ対談

10周年を迎えたANRI。これまで人に支えられ、その人たちの目にはどんな風に映ってきたのでしょうか。ANRIのファンドに出資いただいた方々にお話をきく対談シリーズ。第一回は、シニフィアン株式会社の代表を務める朝倉 祐介(以下、朝)さんと、ANRI代表パートナー 佐俣アンリ(以下、佐)が対談させていただきました。

朝倉 祐介(あさくら・ゆうすけ)
兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て現職。株式会社セプテーニ・ホールディングス社外取締役。Tokyo Founders | Fundパートナー。ANRIにはミクシィ代表取締役社長時代にANRI1号ファンドへの出資を行っている。

5000万円の出資を決めた理由

──おふたりの一番最初の出会いはいつ、どんなふうに?

:多分ね、サバゲー(サバイバルゲーム)なんですよ。

:うわー!そうですね。サバゲーやってましたね。共通の知人で、サバゲーが好きな人がいたんですよね。

:それで、車の中でスタートアップについてひたすら語っている人がいるなあ、と。それが一番最初の出会いです。その後、僕がミクシィの取締役をしていた2012年の夏にTechCrunchでANRI設立のニュースを知りました。「言ってよ!」って連絡したのを覚えています。

──実際に出資のお話はどちらからされたんですか?

:僕から率直にお願いしました。当時はANRIに与信もなければ、結果もない。そうすると、僕がスタートアップのまわりで動いている奴だというのを知っている人に頼むしかなかったんです。もう必死だから、ストレートにお願いするしかない。

:当時20代後半でベンチャーキャピタル(以下、VC)をやる人なんていなかった中、リスクをとって独立した方だったし、友人としても応援したいと思っていました。さらに、フリークアウトなどの成長の過程も見ていらっしゃるので、スタートアップについて深い知見があるだろうという期待もありました。その掛け算でした。結果として、当時取締役社長をしていたミクシィから、5000万円の出資をさせていただいた。

:当時、1億5000万円のファンドに5000万円出資いただきましたから、とんでもないことですよね。ファンドに占める出資の割合が普通は5%くらいの人が多い中で、本当にありがたかった。

:投資の検討をしていた2013年の年始は、僕がミクシィの社長になることが内々で決まっていたという状態でした。経営会議でみんなを説得したのを覚えています。当時SNS事業が苦境に陥っていた中、新しい事業に挑戦していかなければいけなかったこと、その情報源としてスタートアップのマーケットの状態を出資者の立場でつかめるメリットがあったことが決め手になりました。いい会社があればM&Aやサービス開発の参考にさせていただければいいな、という気持ちもありました。

:多く出資いただいている分、もちろん細かくレポーティングさせていただきましたし、最初にMERYを買収したいと言ったのも朝倉さんでした。鋭かったですよね。そういう意味では狙いどおりだったのかもしれない。

──ANRIから見ると、朝倉さんからの出資はどのようなインパクトのあるものだったのでしょう。

:外から見ればANRIは謎の若者が始めた謎のVCだったんです。ファンドへの出資って、みんな低い金額に合わせてしまいがちなんですよ。情報が欲しいだけなら、500万円でもいいわけですから。それはそれでありがたいのですが、ミクシィがどかっと5000万円で入ってくださったのは大きかった。「ミクシィがこれだけ出しているなら」と弾みがついてきて、だんだん上場企業からの出資が決まっていった。そういう流れを作ってくれたんです。

同じ年代で熱量を持ってスタートアップに取り組む稀有な存在

──朝倉さんから見ると、当時のANRIはどんな存在でしたか?

:まず、同じ年代でそこまで熱量を持ってスタートアップの世界に組んでいて、かつ独立した個人としてやっている人は珍しかったと思います。さらに、フリークアウトの立ち上げなどをハンズオンでサポートなさった経験も貴重だった。僕らの世代って、”インターネットの伊達政宗世代”みたいなちょっと波に乗り遅れた世代同士で、仲間意識があったのかもしれません。

:本当にそうですよね。僕らの上のナナロク世代が仲が良くて、資質なら負けていないはずなのに。だから、朝倉さんが社長になると聞いた時は本当に熱かった。「同世代で偉くなった人が出た!」って。

──現在のANRIに対しての印象は、また違っているのでしょうか。

:こうして10周年のサイトを作るくらい、ちゃんと続いているってすごいことだと思います。スタートアップなら一発大きな花火を打ち上げるというやり方もありますが、VCは時間をかけて信頼を構築して、根を張り続けなければならない。それを10年続けるのはなかなかできることではない。さらに、ひとりの天才やトリックスターが勢いでやっているんじゃなくて、チーム作りや場作りをして組織として動いていることに、素直にすごいと思います。

ANRIという名前が抽象化されるまで続けていく

:ありがとうございます。インキュベーション施設の運営は自分が一番コミットしないと火がつき始めないので、場づくりには時間をかけています。けれど、そういうこともやり続ければ意外とできるんだなという実感が持てるようになってきました。
一方で、起業家と一対一で向き合う職人のようでありたい自分と、経営者としてマネジメントをして、他のメンバーに任せていくバランスを考えています。

:職人芸でやって、終わったらぱーっと解散というのも格好いいですけどね。

:そうですね。その中で僕は、ANRIという名前が抽象化されるまでやりたいなと思っています。クライナー・パーキンスのクライナーとパーキンスがもはや誰だかわからないように、「アンリって誰かの名前なの?」となるくらいまでやりたいな、と。

──これからのANRIに期待したいことは、どんなことですか?

:VCを含めたスタートアップのコミュニティが日本で盛り上がってきたのはここ10年くらいのこと。ANRIはその波に乗った筆頭格だと思います。今は10年、20年先に行っている人たちがいますが、いずれそういった先達も見たことのない未知の領域に行くんだろうなと思います。その時に、日本のVC経営のロールモデルとしてどんな姿になっているのかが楽しみです。
ちょっと主語が大きいですけど、僕には「日本をなんとかしたい」という思いがあって、そのレバーはスタートアップしかないと思って、スタートアップの世界に携わっている。役割や立場は違えどANRIと一緒にこのマーケットを大きくしていこうぜ、という気持ちがあります。ANRIにはそういったムーブメントをもっともっと牽引する存在になっていただきたいなと思います。

写真・文:出川 光