Interview

「僕が投資すれば心は折れない」 ANRI×Azit対談

株式会社Azit

取材を行うGood Morning Buildingに到着すると、もうお二人が到着していて笑い声をあげながら何やら話しているところでした。今回インタビューするのはANRI株式会社の代表でありベンチャーキャピタリストの佐俣アンリさん(以下、ア)、CREWという配車アプリなどを開発する株式会社Azitの吉兼周優さん(以下、吉)。

株式会社Azit(かぶしきがいしゃあじっと)
2013年11月に設立。代表の吉兼さんが学生時代から友人とiOSアプリの開発を行っていたことから立ち上がった。「"日本ならでは"のモビリティの未来へ」をテーマに送迎事業のCREW、デリバリー事業のCREW Expressを手がける。オンデマンド交通・物流分野の課題解決を目指している。

生意気で、賢いヤツだった

──お互いの第一印象を覚えていますか?

吉:2012年に孫泰蔵さんがやっていたアクセラレータープログラムがきっかけでお会いしたんだったと思います。「同郷だから!」と言って可愛がってもらった記憶があります。その時すでに事業を始めていましたが、アプリ開発ばかりをやっていて他のことが何もわからない中で、率直に相談できる“大人の人”として頼りにしていました。

──アンリさんはいかがですか?

ア:第一印象はね、生意気。まあ、賢いヤツで、よく考えているなと思っていました。何か話していても、納得しないとちゃんと言い返してくる。

吉:それは確かに、生意気ですね(笑)。

どうせなら、好きな人と働きたいから、アンリさん。

──吉兼さんは学生時代に始めた会社でそのまま起業しているわけですが、その投資主にANRIを選んだのはなぜなんでしょう。

吉:当時はANRIがいいというよりは、アンリさんがいい、という気持ちでした。どうせ起業するなら好きな人と働きたいと思って。

──アンリさんが「好きな人」だったわけですね。

吉:そうですね。会うとやる気が出るんですよ。ビジネスのディスカッションをできる人はたくさんいますが、相談に乗ってもらった後で頑張ろうって思える人は貴重でした。

──それはどうしてなんでしょう。

吉:視野を広げてくれる話が多いからだと思います。仕事の在り方やマーケットの大局観についてといった、仕事の前提となるところに対してフィードバックしてくれて、あとは、僕に向いているかどうかなど、スケールの大きな話をしてくれますね。

──アンリさん、これは狙い通りなんでしょうか。

ア:起業家にはいろんなタイプがいますが、吉兼さんの場合は、賢いから放っておくと規模のちいさいものを作り込んでしまう可能性がある。大きくて難易度の高いものに打ち込めばうまくいくだろうなとわかっていたので、スケールを大きくするチューニングだけやれば持ち前の賢さで突破していくだろうと思っていました。

吉:そうやって僕のことを考えてアドバイスをして、いつも視座を変えてくれるんです。あとは、他の人には打ち明け辛いことも全部アンリさんに相談しています。「来月お金なくなっちゃいそうです」とか。

僕が投資すれば、心は折れない

──「来月お金なくなっちゃいそう」はすごいインパクトですね。

ア:何度かANRIが投資しないと会社が潰れていただろうっていうタイミングはあったよね。特に覚えているのは2019年末くらい。「明日緊急で会えませんか」って連絡がきて、ミーティングルームに入ってきた姿がなんだかちんまりしているんです(笑)。それで、「今回さすがに会社が厳しそうですが、もしだめでも次は必ず恩返しをするので」なんて言われて。

吉:あの時は「これはもう潰れるかもしれない」って思った、過去最大の窮地でしたね。当時は、一週間くらいずっといろいろな人に謝り続けていました。その月の支払いはできなさそうだし、人が辞めて会社の空気がこれまでにないほど悪いしで。心の火は消えていなかったけれど、会社をたたむことも半分覚悟していました。ただ、アンリさんならそういう状況でも諦めるなと言うだろうなとも思っていましたね。

ア:でもその時の僕はもっと大きな問題がやっと片付いたばかりだったから、「危機のスタートにも立ってねぇ!」と。局面を客観的に判断しすぎて、本当は勝てる戦いで逃げるのはもったいない、社長がとにかく明るいだけで会社の空気は良くなっていくんだという話をしました。

──結局そのピンチはどうやって切り抜けたのですか?

吉:アンリさんと話終わった後には、リーダーが暗い顔をしていてはだめだ、とにかく明るくいこうという気持ちにすでに切り替わっていました。ふっ切れたんです。

ア:それで、 ANRIが先頭を切って追加投資をしました。僕が投資すれば、心は折れないと思ったから。共同投資をしている投資家の方もたくさんいて、その中で一番ちいさなファンドの僕らがまず投資したほうがいいだろうと。会社が辛い時、支える側である投資家は一枚岩にならないといけないんです。そのために「うちは引き続き出しますよ!」と。

toCで本気でバットを振り続けて、いつかホームランを打つのがCREW

──この2019年のピンチの時もそうですが、ANRIとしてAzit・CREWと吉兼さんを評価しているところや、期待しているところはどんなところですか?

ア:結構当たると思うんですよね。まず魅力的なチームを作れてきていること。経営危機の時に、本当に申し訳ないけれど辞めていただかざるを得なかった方が、手伝いに戻ってきてくれている。そういうチームなら成功するだろうという確信があります。事業で言えば、ものをA地点からB地点へ移動させる需要は、新型コロナウイルス感染症のこともありネットで注文が便利になった分、さらに高まっている。物理のパイプを細かく張り巡らさなければいけなくなったのは自明です。そこに張っているサービスだから、どう見ても成功するしかない。吉兼さんは若くしていろいろな挑戦をしているので、toCで本気でバットを振り続けていつかホームランを打つ人になって欲しいと思っています。

──吉兼さんは、CREWでどんな世の中を作りたいと思っていますか。

吉:現代の技術で、どこをどんな車両が走っているか、リアルタイムでわかるようになりました。デリバリー領域では、これまで長距離トラックが大きな拠点を行き来してどかっと運んでいたものを、ちいさな乗り物が細かく運ぶことで、これまで「明日届く」はずだったものが「30分後に届く」世界が作れると思っています。送迎領域では、今どこにどんな車がいるのかをデータで取れるので、相乗りなどを掛け合わせれば、駅から車で帰るといったようなちょっとした移動がもっと便利になる。そういうラストワンマイルをCREWが埋める世界を作りたいと思っています。

愛を持って、不確実性に賭けていこう

──今日のお話で驚いたのは、投資を「心を折らせないため」「何かやってくれるだろう」という理由で決めたエピソードでした。

ア:それを僕らは不確実性と呼んでいます。もちろん優秀な人が可能性のある事業をやろうとしている前提はありますが、正直どうなるかわからないもの。うまくいくかもしれないしだめになってしまうかもしれないもの、リスクの計算ができていないものに積極的に投資していくのがANRIのスタイルです。投資をロジカルに賢く突き詰めてしまうと、短期で高額を回収できる不動産などに投資したほうがいいという結果になってしまう。けれど、僕らにお金を預けてくれている方たちは、ANRIが介在してそういう不確実性を持っているけれど「なんだか好き」「あったほうがいい」「成功して欲しい」と思える事業が実を結ぶのに価値を感じてくれているんです。

吉:そういうところに、僕はANRIのゆるぎない愛を感じます。ANRIの人たちは、起業家に対して異常な愛を注ぐんです。はじまりはアンリさんなんでしょうけど、それをみんなで体現しようとしていて、資本主義に基づくロジックだけじゃない世界観でものごとが動いている。その結果、起業家に愛され続けているのがANRIの良さですね。冷たい、無色透明なお金の塊ではなく、血の通った色のあるファンドだと僕は思います。

──Azitが大成功した時、やりたいことはありますか?

ア:投資先がうまくいっても、「僕は何もしていないです」と言うことがほとんどなんです。でも、Azitは、「僕やりましたよ」って言うかもしれない(笑)。それくらい思い入れがありますね。

吉:嬉しいなあ。僕は、過去はもう振り返りたくないですね。常に、日本の未来を作るぞという気概で前を向いていたいです。