Interview
「あったほうがいい世界に投資する」 ANRI×コノセル対談
株式会社コノセル
取材に現れたお二人はお揃いの白いTシャツ姿。「合わせてきました」「やっぱり?」と嬉しそうにペアルックでお話を聞かせてくれたのは、ANRI株式会社のキャピタリスト河野純一郎さん(以下、河)株式会社コノセルの田辺理さん(以下、田)。
株式会社コノセル(かぶしきがいしゃこのせる)
「人と場とテクノロジーが融合した教育を提供することで、誰もが学ぶことを楽しみ、自分の目指す姿に向かっていく社会」を実現するために学習塾「コノ塾」を展開している。
学習塾版のユニクロを作ろう
──コノセルの事業についてお聞かせください。教育系スタートアップの中でのコノセルらしさはどんなところでしょう。
田:僕らがやろうとしているのは、学習塾版のユニクロを作ることです。誰もが手の届く価格で、その道のプロが驚くほどの品質のものを日本中で提供できる状態を目指しています。そのために、学ぶ場所からそこで使われるアプリやコンテンツまでを一気通貫で提供しています。
河:その表現いいですね。初めて聞きました。
──お二人が出会った時、事業のフェーズはどのあたりだったのでしょうか。
田:創業前でした。事業プランはありましたが、何が起こるのかまだわからない状態でした。
──そういう状況で投資家としての河野さんにどんな印象を受けましたか?
田:不確実性の高いシード期は、背中を預けられる人に出資して欲しいと思っていました。逆境の時でも支えてくれるような。河野さんにお会いしてみたら、まさにそういう人だろうと感じました。起業を決めたばかりで不安だらけのタイミングで、事業を褒めてくれて単純に嬉しかったのもあります(笑)
河:そう思っていただけたのは嬉しいですね。けれど、褒めたのは田辺さんだからというわけではなく、本当に面白そうな事業だと思ったからです。社会的な意義を非常に感じる事業で、面白そうだなと。
教育の現場に必要な4つのC
──コノセルの事業が面白いと感じたポイントを教えていただきたいです。
河:初めて事業について話してくれた時に、田辺さんが「教育には4つのCが必要です」とおっしゃったんです。そのCとは、コンテンツ、カリキュラム、コーチ、コミュニティ。それで自分自身、予備校の仲間がいると頑張れたことを思い出しました。お話を聞くまでは、インターネット時代にリアルな場所をかまえる必要性に疑問を感じていたのですが、話を聞けば聞くほど、リアルの場所とコンテンツを一気通貫で提供するモデルに必然性と希望を感じました。
田:僕は「スタディサプリ」の事業に関わり、教育とテクノロジーの相性の良さを確信する一方で、自分一人では使いこなせない子供たちが多く、非常にもったいないと感じていました。マスの生徒に教育×テクノロジーの良さを届けるためには塾というリアルの場を持つしかない。けれど、このアイディアへの反応は「場って重くない?」という懐疑的なもの。きっとこれは誰もやらないだろうと感じました。それなら、僕がこのアイディアをやらなければとてももったいないと思い、起業に踏み切りました。
コロナ禍の決断
──その後の事業は順調だったのでしょうか?
河:基本的には、とても順調でした。初めてお会いした時点ですでに事業計画や進むべき方向は決まっていたので、それを検証するところから始まりました。検証したかったことは大きく二つで、一つは子供たちの学習成績が大きく上がるかどうか、もう一つは塾の収益性が改善するかどうか。前者は、顕著に結果が出ました。後者に関しても10%くらい利益率が改善し、この二つの仮説が合っていたと検証できています。
田:ただ、大きなハードルとして、教室を開く直前にコロナ禍という地殻変動がありました。
──リアルな場を持つ事業モデルを考えるとかなり難しい局面ですね。
田:はい。まず子供たちの学校が一時的に休みになってしまいました。それに伴って塾という密集した場所にも通いづらくなった。世界中が予測できないことに立ち向かっている中、リアルな場所を持つビジネスを行うのかどうかはかなり大きな決断でした。
──実際にどんな風に決断したのでしょうか。
田:初めての緊急事態宣言が発出された頃は、本当に悩みました。リアルな場を持たなければ僕がこの会社をやる意味はないと思う一方で、人から預かったお金をこんなに不確実なことに使っていいのだろうかと。それをそのまま河野さんに相談しました。
河:その時の田辺さんはいくつかシナリオを用意してくれていて。コロナ禍がどれくらいで収束するか、場合に合わせたシミュレーションを見ながらディスカッションをしました。リアルな場を手放してオンラインに振り切ってしまったら、他の教育系スタートアップと何ら変わらないし、もともと田辺さんがやりたかったことと、かけ離れてしまう。ウイルスによる環境変化であれば、人類は絶対に克服できる。その後の世界で人の本質はそれ程変わらないから、場の重要性や人と対面で会えることの価値は上がるだろう。さらに、多くの投資家や事業家も「リアルの場を持つのは厳しい」と言っている。それならばやった者が独り勝ちできる、という話をしたと思います。
田:僕はそれを聞いて、河野さんの前向きさに驚きました。「この人すげえ」って。
僕はいろいろ考えてしまうタイプなんです。それに対して河野さんは、論点をポンポンとシンプルにおさえて「やりましょう」って言ってくれた。
──これはANRIだからできた決断でもあるのでしょうか。
河:ANRIの良さって、長い時間待てることなんですよね。多くの投資家は短期的に収益や結果を出そうとするんですよ。でもコノセルがやろうとしている事業は世直しであり、結果が出るまでに時間がかかる。教育を施された子供たちが大人になって社会に価値を還元するのは、20年くらい先になるんですから。それを踏まえると、信念をもった田辺さんならやり切れるはずだと考えました。とるべきリスクが時間だけなのであれば、僕らは待てる。それならば投資家の僕らが背中を押すべきだと思ったんです。
あったほうがいい世界に投資する
───ANRIらしい後押しは、この時以外にもしているのでしょうか。
河:今回のシリーズAという大型の資金調達も、まさにANRIらしい後押しだと思います。既存の投資家である僕らが一般的にやる投資は、このような場合、持ち株比率を維持するための追加投資、いわゆるプロラタと呼ばれるものを行うのが通常なんですが、今回はこのラウンドの半分をANRIから出資しています。リアルの場を持つことにためらう他の投資家の方もいる中で、これは、僕らからの「この事業に確信を持っています」という対外的なメッセージでもありました。これが功を奏してポジティブな雰囲気を作ることができた。事実、その後の出資も順調に決まってきています。
──田辺さんはどんなお気持ちでしたか?
田:純粋に嬉しい気持ちと、甘えちゃいけないという想いが混在していました。優しい兄貴分のような河野さんとは違う視点を持った、厳しい意見を聞く必要を感じて、さまざまな投資家の方に会わせていただきました。信頼して後押ししてくれるからこそ、もっと成長しないといけないと自然と思わせてくれるのがANRIの特異性ですね。事業家を誘導しようとせず判断する材料だけを与え、頑張ろうと思わせてくれる、変わった存在ですね。
──確かに変わっていますね。理由はあるのでしょうか?
河:ANRIのVision & ANRI Wayの中に「不確実性を楽しむ」というものがあります。儲かるからではなく、あったほうがいい世界を作る事業に対して投資する。僕らの仕事は、起業家が足元を見始めて事業が矮小化しそうになった時に、彼らがもともと持っていた野心や夢まで引きあげることなんです。多くの人が「難しい、できない」と言っても、「一緒にそこに行こうぜ」と手をとってあげる。世の中に必要なものなら、価値は後からついてくるのだから。
シリーズAの半分を出そうと決断したのは、実は代表の佐俣アンリでした。「ビジネスとしてもいいし、そういう世界があったほうがいいから」と。信念のもと投資しているので、アジェンダで誘導する必要はない。放っておけばやるのが起業家ですから。
──田辺さんが描く、「あったほうがいい世界」はどんなものなのでしょうか。
田:学ぶ人中心の教育が行き渡る世界です。テクノロジーを用いて、高品質で効率のいい教育が広まり、先生は、子供たちが正しく勉強できるように導く存在であることが当たり前になるといいと思います。そうすれば、教育で成功体験を持つ人が増え、学びが日常のピースになって、学校を卒業した後も学び続けることが当然になっていくはずです。
──それを達成するまで、紆余曲折は続きそうでしょうか。
田:大丈夫、僕は過ぎたことは忘れてしまうんですよ。だから、今日お話した困難だった時のことも、そんなことあったなとしか覚えていないくらい(笑)
河:これこれ。これが田辺さんのすごいところです。
(写真・文:出川 光 校正:梅本 智子)
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