Interview
「私も一緒にNagiを作っていく」ANRI× BLAST対談
株式会社BLAST
一緒に戦っている仲間なんだと伝わってくる、ちょっとした仕草があります。例えばこのお二人が、取材先で会うなり短い情報交換をした時や雑談をしている時に覗いた表情。同じことに憤ったり喜んだりしてきた姿が見えるようでした。そんな関係が印象的だったのは、ANRIのベンチャーキャピタリストの江原ニーナさん(以下、江)、株式会社BLASTの石井リナさん(以下、石)。
株式会社BLAST (かぶしきがいしゃぶらすと)
“日本の女性をエンパワーメントする”ことをミッションに掲げ、フェムテックブランド「Nagi(ナギ)」やエンパワーメントメディア「BLAST(ブラスト)」を運営している。
──現在の事業について、教えてください。
石:Nagiというブランドで、吸水ショーツを展開しています。女性がどんな日も一枚で過ごせるショーツで、standard、slim、fullの三つのタイプがあります。
──ウェブサイトを拝見すると、想像よりも吸水量が多くて驚きました。
石:先日発表した新しいモデルになって、さらに吸水量が増えました。特許も出願中です。
──お二人の出会いはどんなものだったのですか?
江:もともとANRIに投資検討の依頼がきた時には、他の投資家が担当していたのですが、それを引き継いでもらったのが出会いです。私のほうが起業家との相性も良いだろうし、ユーザーだからという理由で紹介してもらいました。私にとって、石井さんはかっこいいフェミニストの代名詞的な存在で、憧れていましたから、石井さんの思想や実現したい世界への共感が強かったのを覚えています。
──石井さんはいかがですか?
石:当時は資金調達の真っ只中で切羽詰まっていて、「興味がなかったから、違う人に回されてしまったのかな」とちょっとネガティブな感想を持っていました。今考えてみれば、江原さんのような強力なパートナーと出会えて、本当に良かったなと。女性のベンチャーキャピタリストや若い方って少ないですし、そういった意味でも心の底から安心して気兼ねなく相談や会話ができています。
どんなことも話せる関係
──江原さんが良いパートナーである理由は何でしょう。
石:ユーザーであることはもちろん、事業の前提にある思想が同じこと、つまりフェミニストであることが大きな心の支えになっています。「BLAST」というメディアでもフェミニズムについて発信していたので、周りに理解がある人が多いのは事実ですが、いつでも話せるパートナーは江原さんや夫、会社のメンバーくらいなんです。普段の会話の中で自然にそういう話を切り出しても大丈夫だという安心感を持てる相手は貴重だなと思います。
江:そう言っていただけるのは嬉しいです。私の周りでも、ジェンダーに関する問題に興味を持っていたり、フェミニズムにぼんやり理解があったりする人はいても、果たしてそれがどのくらいの理解度なのかは測りきれないこともある。石井さんとは、例えばその時起きている社会問題についてふいに話を始めても、同じ視点で話せる感覚があります。
石:本当に私たち、いろんな話をしますもんね。他の人とだと微妙に意見が別れそうだなと思う内容でも、気兼ねなく話せています。
コミュニティからプロダクトを作る
──江原さんから見て、石井さんやNagiの強みはどんなところですか?
江:プロダクトの魅力や品質はもちろんですが、ユーザーの声を聞きながら作った点が最も大きな強みだと思います。女性の生き方に関心の高いコミュニティがあり、そこからプロダクトが生まれたことは過小評価されがちですが、なかなか真似できない強みなんです。
──石井さんとしては、先にメディアを作ってプロダクトを出すというのは最初から計画していたのですか?
石:いえ、そうではありませんでした。日本のジェンダーギャップが世界と比較すると大きいことにショックを受けて会社を作り、当時はまず日本の女性たちをエンパワーメントするならばメディアだろうと考えて「BLAST」を始めました。運営していく中で、情報だけでなくプロダクトでも物理的に女性をサポートできるはずと思うようになりました。プロダクトを作るのであれば、まだポジティブになっていない課題に向き合おうと、女性のからだにまつわるプロダクトを作り始めました江原さんがおっしゃってくれたように、結果的には「BLAST」がきっかけでつながった女性たち150人くらいの声から、Nagiを作ることができました。
──実際の声を聞いてプロダクトに生かした点には、どのようなものがありますか?
石:プロダクトを吸水ショーツにしたのは、まさにアンケートの結果を反映したからでした。アンケートをとってみると、膣に入れるプロダクトにはみんなかなり抵抗を感じるとわかりました。それならば、タンポンや月経カップのようなものは受け入れづらいだろうと考えて、日本でも受け入れやすいけれど今までになかった吸水ショーツを作り始めたわけです。
江:そうやってユーザーと一緒にプロダクトを作ると、完成した時にその人たちが自主的にアンバサダーのような役目を担ってくれるんです。それをいい意味で恣意的にやっているところもすごいし、プロダクトのパッケージやSNSにもシェアしたくなる仕掛けがたくさんあるのも、石井さんのセンスを感じるポイントです。
今も戦いの真っ最中
──先ほど、吸水ショーツはもともと日本にほとんどなかったというお話が出ました。作ること自体かなり大変だったのではないでしょうか。
石:現在もプロダクトを説明する文言や表記の定義を巡って、大きな壁にぶつかっている最中です。何度も言われたことがひっくり返るような正攻法の見えない問題である上、初めて出てきた問題なので、今も戦っている最中です。
江:ポジティブな見方をすれば、領域として盛り上がってきた時に生まれる、いわゆる黎明期のカオスの只中にいるのかもしれません。私にできるのは、一緒に困って奔走することと、投資家として解決できそうな方とつなぐハブになること。この問題が出てきた時から、一緒にいろんな方に相談に行ったり役所に通ったりと、なんとか解決できる方法を石井さんと一緒に探しています。「絶対諦めちゃだめだ!」なんて言われても暑苦しいだけなので、この二つの方法で支援できたらいいなと思っています。
私も一緒にNagiを作っていく
──石井さんにとって、ANRIはどんな存在ですか?
石:まず、ANRIについては、サポート体制がすごくしっかりしていて驚きました。出資していただいた時に、ANRIのサポート内容を一覧でいただいたんですが、「こんなことまでしてくれるの」と驚きました。例えばWantedlyのプランがあったり、紹介してもらえる第三者機関がたくさんあったり。課題があればそれを解決するところにつないでくれる体制にはかなり驚きました。
──江原さんは、どんな存在でしょう。
石:強力なパートナーです。これは私の良くないところなんですが、人を頼るのが苦手だったり、距離感がわからなかったりで、頼れる株主はすごく限られていたんですよね。江原さんのようにしょっちゅうコンタクトをとったりはせず距離を置いて会社を運営してきてしまった。江原さんは、今起きている問題を一番に把握しながら一緒に動いてくださっているので、とても頼りにしています。出資してくださった後には、「共同創業者みたいな気持ちでNagiのことを思っています!」とおっしゃってくれて本当に嬉しかった。
江:私は、投資家として支援しようとか、石井さんに感謝されようというのではなく、Nagiを一緒に作っていく気持ちでいるんです。Nagiの成長が私の幸せなので、自分がやりたくてやっている仕事が評価されるのは、投資家冥利につきます。
一緒に世界を変えよう
──これからのNagiをどんなものにしていきたいですか?
石:私がこの事業をやっているのは、女性たちが自分のからだをコントロールすることが、その人生をコントロールすることにつながると考えているからです。Nagiをきっかけに自分のからだに向き合って、快適に過ごすことに対して貪欲に、ポジティブになってもいいと伝わるように、これからもさまざまなプロダクトを作っていくつもりです。
また、組織的な面では、同年代の女性たちだけでも集まって会社運営ができるという証明になれたらいいですね。会社を運営していると、資金調達から会社運営までを自らやっていることに驚かれる場面も少なくない。アンコンシャス・バイアスですが、経営や資金調達は私ではなく、右腕になる男性がいてその人がやっていると思われたり。もっと会社を大きくして、、女性たちの自信や雇用にもつなげていきたいです。
江:石井さんがやっているのは、プロダクトを作ることだけではなく、新しい起業家像を作ることでもあるんです。フェミニストとして社会構造の中にある課題や不平等と戦って声をあげていく姿に感化された人が後に続けば、長期的な効果は計り知れない。
それに、考えてみれば私自身もその一人なのかもしれません。圧倒的に男性が多いマッチョなスタートアップ業界内でフェミニズムとして発信し続けることに大変さを感じる瞬間もありますが、石井さんの活動を見たり、一緒に話したりしながら、勇気づけられているんです。
(写真・文:出川 光 校正:梅本 智子)
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