Interview

「スタートアップのハードシングスに出会った時、一番の応援者でありたい」ANRI×ユアトレード対談

ユアトレード株式会社

2023年7月に総額1億円の資金調達を行い、東洋経済新報社が発表する2023年版「すごいベンチャー100」に選出されるなど、その加速が止まらないユアトレード。自らの原体験をもとに、海外貿易の負をなくすことに取り組んでいます。ユアトレードが描く未来はどんなものなのでしょうか。また、それを支えるベンチャーキャピタリストの思いとは。

ユアトレード株式会社代表の柳澤裕人さん(以下、柳)と、ANRI株式会社のベンチャーキャピタリストの金井絵里花さん(以下、金)にお話を聞きました。

ユアトレード株式会社
日本企業の海外販売をサポートすることを目指し、2022年8月から、越境EC含む海外販売で返品となった商品を、現地で回収・保管・再販を行うサービス(以下、返品再販サービス)を台湾から開始。販売チャネルとして現地有力ECサイトの他、自社で運営を行うアウトレットオンラインストア『nomino』で販売を行い、廃棄される運命だった商品がより良い形で次の購買者と出会う機会を提供している。


海外貿易の「負」をなくすユアトレードの事業

──ユアトレードの事業について教えてください。

:ユアトレードという社名の通り、「トレード」、つまり海外貿易や海外流通領域の事業をやっています。「ユア」とつけたのは、それらを民主化する事業だからです。具体的には、海外販売で現地に送られた後返品され、現地に滞留している在庫を再販売して事業者に売り上げを還元するサービスと、その仕組みを応用して誰でも簡単に海外販売を行えるサービスを行っています。

──具体的にはどのようにして滞留している在庫を販売したり、海外販売を実現することができるのでしょうか?

:まず、海外販売で返品された滞留在庫についてはその商品の回収から検品、自社サイトでの再販売までをユアトレードが行います。その後再販売り上げから手数料を引いた金額を事業者に還元しています。また、この自社サイトはマルチチャネル化しているため、このサイトに出品していただきさえすれば誰でも海外販売を始めることができます。現在は台湾を拠点に展開しており、今後は他国に展開していく予定です。

──この事業を始めたきっかけを教えてください。

:商社に勤めていた時に最も負荷が高かったのが、輸出した商品を現地で返品されることでした。当時返品された中で印象深いのはおよそ1万トンの鉄道レール。現地で再販先を探すというミッションにとても苦労した経験から、このサービスを構想しました。商品や規模の違いはあれど、同じことが起きているのではないかと思ったのです。

:この事業について初めてお話を聞いた時、素直に「面白い!」と感じました。自分にとって決して身近なことではないけれど、確かにそのペインはありそうだと納得できたからです。柳澤さんの原体験に紐づいているので強い事業になると思いましたし、ファウンダーマーケットフィットができそうだと感じました。

メンタルの安定した、ブレない起業家なのが魅力

──お二人の出会いはどのようなものだったのですか?

:資金調達をするタイミングで、色々なVCの方にお会いしていた時に、プライベートのつながりがきっかけでANRIを紹介してもらいました。そこで金井さんが担当してくださるという話になって。事前にホームページで金井さんのことを調べてみて、「エリートの方だ」と身構えていたらフランクで気さくな方だったので驚きました。一言で説明しづらいユアトレードの事業概要をすぐに高いレベルで理解してくださって、安心したのを覚えています。

:すぐに事業内容が理解できたのは、柳澤さんご自身が叶えたい世界が描けていて、それに対して仮説を持ってロジカルに事業を展開しようとしていたからです。また、それらの仮説が商社での経験に裏付けられていたのも信頼感があり、柳澤さんだからこそ成功させられる事業だなと感じました。

私が柳澤さんにさらに興味を持った点は、そのキャラクターです。起業家のタイプは様々ですが、柳澤さんはメンタルが安定していて、それが強みになるタイプに見えました。一方で、どんなことに心から喜ぶ方なのかが初めは全くつかめなくて。それならばじんわりと信頼を深めながら柳澤さんのことを知ってみたいと思えたのです。

:確かにメンタルは安定している方かもしれません。嬉しくなったり、悲しくなったりすることがあっても感情が振れている時間が短いのだと思います。そういうところが掴みどころのなさにつながったんでしょうか。

:いえいえ。そこが魅力だと感じました。と言うのも、私が少し似ているタイプなんです。メンタルがあまりブレないところも似ていて。スルメのように、時間をかけてゆっくりと味わいが増すような関係になれそうだと感じていました。

ANRIをリード投資に選んだのは、「プラスのエネルギーに触れられると思ったから」

──その後、ANRIの投資を受けるまでのことを教えてください。リード投資にANRIを選んだのは、どうしてだったのでしょうか。

:まずは、雰囲気です。ANRIという組織が持っている、起業家ファーストの雰囲気が何よりの決め手でした。実際にANRIのことを知ってみると、「苦しい時にこそ支える」という投資のスタンスや、起業家を一人称にして語る文化があることがわかりました。また、「ANRI Investment Policy」で具体的な投資に対するスタンスを表明しているのも大きな理由です。ANRIの投資条件は他に比べて良いもので、その理由をこのようなステートメントで出していることから、ANRIの精神を感じることができました。ANRIと一緒にやっていくことで、モチベーションが上がったり、プラスのエネルギーに触れたりできると感じたのが、ANRIを選んだ理由でした。

──キャピタリストの金井さんの印象や、期待はどのようなものでしたか?

:金井さんもキャリアチェンジをしてチャレンジしているタイミングだったので、同じフェーズにいる仲間であることが心強かったです。また、メンタルが安定しているので、伴走していただくにはぴったりだなと感じたのを覚えています。我々が一社目の投資なので、気合いが入っているだろうという目論見も少し。

──金井さんはいかがでしょうか。投資家として、あらためてユアトレードを担当することになった時のお気持ちは。

:一社目であることで確かに気合いは入っていましたが、私のエゴで何かを変えたいというものではなく、絶対に成長すると信じ続けたいという純粋な気持ちでした。柳澤さんは、やりたいことをすでに自分の中に持っていて、決してそれをぶらさないタイプの起業家ですから、やりたいことをのびのびとやってくださるだろうという信頼もありました。私は柳澤さんが進む方向を定めるための壁のような存在として伴走していけたらいいな、と。

スタートアップにはいい時もあれば、悪い時もあります。経験豊富な柳澤さんも、スタートアップのハードシングスは初めて経験することになるはず。一番辛い時がやってきたら、すかさずそれを察して、プラスにできる存在であろうと思っていました。

メンタルコントロールを通して起業家を支えていきたい


──現在はどのような関係を築いているのでしょうか。

:現在、ANRIが運営しているインキュベーション施設「CIRCLE」に入居しているので、なにか相談があればすぐに金井さんに相談しに行っています。金井さんも意識されているのか、1日1回は我々のデスクの近くを通ってコミュニケーションを取ってくれます。

また、金井さんはメンタルコントロールが大切だと常々おっしゃっていて。そのための知見を共有してくれたり、コーチング相手のような存在にもなってくれています。僕は、事業を左右するのはビジネスモデルやマーケットの要素も大きいですが、体力と気力、そして時間も大きな要素だと考えています。中でも周りに影響されやすい気力をコントロールする大切さは、金井さんに気付かせていただきました。

:前職でメンタルヘルスを含む健康を支援する事業をやっていたのが、投資家としての仕事に活きています。起業家はメンタルの浮き沈みが激しく、それが事業にも大きく影響するので、そのコントロールが大切なのです。悩んでいるならばそれを伝えること。私がその相談相手になれれば嬉しいですし、誰かに悩みをアウトプットすることをリマインドすることで、起業家を支えたいと思っています。


貿易をなめらかにし、環境負荷を減らす

──これからのことを教えてください。柳澤さんが作ろうとしているのは、どんな未来なのでしょうか。

:グローバルの物通は、今後も加速していきます。そして、世界人口はどんどん増え、資源は減っていく。そんな中でユアトレードが目指すのは、貿易システムのロスである廃棄を解消することと、貿易をしたくてもできない人の機会損失をなくすこと。目指すのは、入口から出口までなめらかに物が流れる世界です。また、これにより環境負荷を減らすのがこの事業をやる上での責任だと考えています。

:柳澤さんに出会って、改めて自身の経験を振り返ってみると、特に海外では返品が気軽に行われていたのを思い出しました。アメリカではこの返品による廃棄が年間206万トンにものぼると聞きます。ユアトレードはこの課題を「ちょっと便利なサービス」ではなく、根本的な仕組み作りで解決し、マイナスをゼロではなく、プラスにしようとしています。台湾に次ぐ拠点ができるのもそう遠くないことを考えると、柳澤さんは世界を変える起業家になるはずです。私はその一番の応援者として、柳澤さんが描く未来をサポートしていきます。

(写真:J.L  文:出川 光)

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