Interview

思いやりのある「他人ごと」が起業家を支える。ANRI×dinii

株式会社dinii

あまりに仲が良さそうに話していたので、インタビューで「他人ごと」というキーワードが出てきた時には驚きました。しかし、お話を聞くうちにその背後にある思いやりに納得。お話を聞いたのは、ANRIの中路隼輔さん(以下、中)、株式会社diniiの山田真央さん(以下、山)です。

株式会社dinii(かぶしきがいしゃだいにー)
「"飲食"をもっと楽しくおもしろく」をミッションに掲げ、モバイルオーダーサービス「ダイニー」を手掛ける。飲食店のオペレーションコストの削減だけでなく、接客の質の向上や顧客データを生かしたファン作りなどの付加価値を提供する。]

慣れればそれが当たり前になる、ダイニーのサービス

──事業について詳しく教えてください。ダイニーはどんな風に使うものなのでしょう?

:ダイニーは、飲食店のモバイルオーダーとPOSのサービスです。最近は国内の飲食店でもスマートフォンで注文できるところが増えてきたので、イメージが湧きやすいかもしれません。ダイニーは中でも店内での注文に注力していて、お客様がテーブルに設置してあるQRコードを読み込み、Webアプリを使って注文することを可能にしています。わざわざ店員さんを呼ばずとも注文ができるというわけです。

──なるほど。私も使ったことがありました。最初はびっくりしますけど、確かに便利ですよね。

:そうですね。慣れればこちらのほうが楽になってくると思いますよ。

山田真央という人間、そしてチームに賭けた

──お二人はどこで出会われたんですか?

:2年半くらい前に、ANRIのオフィスである「ネスト本郷」で行ったパーティーで会いました。パーティーと言ってもオフィスで起業家とご飯を食べようという、チャラチャラしていない会ですよ(笑)。

:当時はまだ法人化する前で、アプリを作っている最中でした。中路さんにお会いして事業の話などをいろいろさせていただいたんですが、その時結構お酒を飲んでいて。「今度お酒が入っていない時にちゃんとプレゼンさせてください」と頼み込んだのを覚えています。

:その時から「動ける起業家なんだな」という印象を山田さんに持ちました。やっている事業の内容を聞いて、学生の割に労力のかかる事業領域を手掛けていることや、学生がBtoBtoCのモデルにチャレンジしていることに驚きました。当の本人は「これからこういう風にやっていくんです」と事業計画を淡々と話していて、すでにいくつか導入店舗も揃えていた。地に足をつけてちゃんと事業を進められる起業家という印象は今も変わっていません。

──学生が起業する場合は、toCのサービスやアプリが多い印象です。店舗導入や営業が必要で、ある意味腰を据えて取り掛かる必要がある事業を選んだのはどうしてなのでしょう。

:飲食に興味を持ったのは、僕自身がアルバイトをしていた経験からでした。課題がわかりやすく、事業者としても消費者としても手触りのある分野だったのでこのジャンルを選びました。課題に対してリアルな体験や確信を持っていたので、トレンドや大変さに関してはあまり考えていませんでした。後になって、こんなに大変だと思い知ることになりました(笑)

──その課題とはどんなものですか?

:今はコロナの影響でまた状況が違いますが、そもそもの飲食店は人手不足が深刻なんです。だから時間単位でアルバイトができるサービスが流行していました。飲食店そのものは黒字であるにも関わらず、働き手が集まらないから倒産してしまうという労務倒産が地方で相次いでいる状況でした。それならばお店に必要な人手を減らすためにお客様ご自身で注文できるサービスがあれば、飲食業界自体のサステナビリティーを支えられるのではと考えたのです。

──中路さんがこの事業に投資をすることにした決め手は何でしたか?

:初回は、比較的少額を投資させていただきましたが、山田真央という人間に賭けた部分が大きかったです。ダイニーの便利さから、これからの世の中に浸透していく予感は掴んでいたものの、実際にそれぞれの飲食店に導入し、オペレーションまでを見届けるのはかなり骨の折れる仕事。それを実際にやり切れるかどうかは山田さんとそのチームにかかっていたんです。僕自身も投資家としてまだ1年半ほどの経験しか持っていない中、起業家・山田真央とそのチームの底力に賭けました。

──いったいどんなチームなのですか?

:華やかな経歴を持つメンバーが泥臭く働くチームです。東大出身で大手IT企業に勤めた経験の持ち主だけれど、驚くほど手間の掛かる泥臭い仕事をやってのける稀有なメンバーで構成されています。泥臭い仕事をやれるのは、もちろん僕自身もです。

:泥臭く働けることは、最初の投資の後で2回フォロー投資をさせていただいた大きな理由の一つにもなっています。奨めるわけではないですが、彼らは本当に長く良く働くんです。山田さんなんて、Good Morning Building のオフィスに泊まり込みで仕事をしてもいいよと言ったら家を解約してしまったほど(笑)。寝袋を持参してチーム全員が泊まりがけで働いているのを見ていると可能性を感じずにはいられませんでした。
また、このパワーは、難易度の高いチャレンジを実現する動力にもなっていました。例えば、スタジアムへの導入に挑戦しようとしていた時。確かにスタジアムでQRコードから注文できたら便利ですが、どう考えても営業が大変そうに見えました。関係者も多いし、大手企業相手に営業が難航するのは目に見えていたんです。けれど山田さんのチームはその壁を超えて導入を果たしてしまった。初めは山田真央という人間の動ける力に魅力を感じていましたが、それがいつの間にかチームの力になっていたのです。

「箱の中」から出してくれるひとこと

──山田さんにとって中路さんの存在はどんなものですか?

:とてもいい意味で、適度な人事、いい感じの放し飼いとでも言いましょうか。ある程度の距離感を持ってアドバイスをしてくれるので、中路さんと話すと俯瞰目線で自分や事業の状態を捉えられるんです。現在のプロダクトに方向性を定めるまでの過程や、コロナ禍への突入など、精神的にタフな僕でも一瞬「どうしよう」と思うことがたくさんありました。そういう時に中路さんに相談すると、箱の中から物事を捉えていた僕を、外に出すようなアドバイスをしてくれるんです。視座が上がると言うか。

──なるほど。適度な距離がありがたく感じられるのはどうしてですか?

:投資家の方は経験豊富なのもあって、事業についてかなり具体的なアドバイスをする方や、自分ごととしてアドバイスをしてくれる方が多いんです。

──「箱の中」の視点でのアドバイスですね。

:そうなんです。けれど、この事業を究極まで自分ごと化しているのは僕らなんです。事業についてのアドバイスをいただいても「もうそれは一年前に考え尽くしました」ということが多い。けれど、少し距離を置いてプロダクトを見つめたり、俯瞰でマーケットを眺めて事業について考えたりするのは、僕らにはできないことなんです。実際の事業を知り尽くした上で、他人ごとの距離感で思いやりを持ったアドバイスをしてくれる感じがとても心地良く、ありがたいと思っています。

──ANRIのカルチャーを感じるエピソードですね。

:そうですね。一番事業に詳しいのは起業家であるというのはANRIのカルチャーだと思います。常に最新の情報やマーケットを追っている起業家が決めることのほうがきっと正しいはずだから、事業をわかっているつもりにならないように気をつけています。投資家の目線から、エクイティファイナンスへの具体的なアドバイスをしたり、起業家が決めた方向に進んだ場合にぶつかりそうな壁があればそれをアドバイスしたりする程度で、起業家の意思決定を尊重するのが投資家の役目だと思っています。僕らのアドバイスで成功するなら、僕らが起業すればいい。アドバイスを咀嚼して実際に舵を取る起業家を尊重して、適切な距離感を保って応援することは投資家にしかできない役割なんです。

飲食業界のDXを担う

──これからダイニーが目指していることについて教えてください。

:注文が便利になるのは単なる機能の話で、長期的に見て飲食店が今以上に繁盛する世界を作りたいですね。例えば飲食業界で上場する会社が増えたらとても嬉しい。それぞれの課題としては、人材不足や顧客管理などが挙げられますが、究極を言えば飲食業界をまるごとオンライン化すること、つまりDXによって飲食業界の利益率を改善していきたいと思っています。

:やっぱり山田さんが最後に勝てると思うのは、彼がこういう言語化される前の現象を掴むことに長けているからです。ダイニーの構想はDXという言葉が出てくる前から話してくれていて、言葉は後から追いついてきたんです。きっと起業家は言葉になる前の現象を見つけて取り組んでいく人たちで、投資家は現象に対して後から名前をつける人たちなのでしょう。そういう意味で、山田さんは起業家の中の起業家のような人。このコロナ禍を乗り越えた後の飲食店は、彼によって、QRコードで注文できるのが当たり前の世界になるでしょう。


(写真・文:出川 光 校正:梅本 智子)

「私も一緒にNagiを作っていく」ANRI× BLAST対談

株式会社BLAST, Inc